えっと、書評です。
私はリアルタイム世代ではないのですが、親の本棚になった『…絶句』や『扉を開けて』『二分割幽霊綺譚』等の第13あかねマンションシリーズや、『星へ行く船』シリーズなどなど、新井素子ワールドの大ファンなのですが、そんな沢山読んだ中で一番好き、というか、定期的に読み直したくなるのがこの『宇宙魚顛末記』です。
このお話、中編小説であり、さらに超名作『グリーン・レクイエム』と一緒に入ってる(というか、実質カップリングのような扱い…)ためやや影が薄いのですが、新井素子さんらしさが一杯に詰まった名作で、是非皆さんに読んでいただきたいお話しです。
ちょっとだけ当時のことを解説しておきますと、新井素子さんはこのお話を書いた当時19歳(!?)で飛ぶ鳥を落とす勢いの人気作家でした。よく言われる彼女の凄さとして「当時の若者の話し言葉を小説に持ち込んだ」ことと言われています。
が、(←このように一文字で大胆に段落を変えるのも斬新でした)
それ以外にもあると思うのです。例えば、
・よく思いついたな、というぶっ飛んだ設定
・当時の若者の心理を見事に分析したキャラクター設定
・小気味よい地の文や会話のテンポ
などなど。現代のライトノベルと言われる若者向けの文学の元祖として話しに上がることも少なくありません。そして、それらが非常に生きているのが、この宇宙魚顛末記なのです。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、このお話しについてです。
主人公のひろみは大好きだった小説が書けなくなり、大好きな彼とも連絡が取れなくなり鬱ぎみの19歳。遊び仲間の「佳拓」「おじょうさん」と出掛けた先で不思議な青いビンを拾います。開けてみると、ビンの中からは悪魔。その悪魔から「3つの願いを叶えてあげよう」と言われます。その後すったもんだあって(ここのやり取りも面白いのです)、そこでうっかり言ってしまった願い事は「みんな魚に食べられてしまえばいい」というとんでもないお願いでした。そして空をみると、地球を飲み込んでしまうような巨大な宇宙魚が浮かんでいました…。
面白いのは、この地球が滅亡するという点に物語の焦点があまり当たらないことです。あくまでも、話はひろみの心情が鬱から復活していく様を「地球滅亡」という舞台上で描きます。ひろみの彼や佳拓、おじょうさんへの思い。悪魔に抱く感情、自分のペットへの罪悪感。そんなものを中心に地球滅亡へと立ち向かっていくのです。
そして、その心情描写がたまらなく上手いのです。これは書かれてから約40年経つ今でも変わらないと思います。自分が悪いのだと思ったときの思考のループ、そしてそれを抜けたときに見える鮮やかな情景。そして女流作家特有視点が生むの佳拓の格好良さ(こうすればモテるんだろうな…)。もちろん、他の作品同様の軽妙な会話文も健在です。作者自身も新装版『カレンダー・ガール』で書いていましたが「作品を本能で書いている」というのが伝わってくる、新井素子という作家の持つ文章の勢いがとても楽しいお話しです。
恐らく、この本以外には入ってないかと思うこのお話、メインの『グリーン・レクイエム』(こちらは沢山の方がレビューを書いております)も名作ですので、是非是非皆さん読んでみてください。
コメント
コメントを投稿